デジタル人民元とは？導入の背景やメリット、現状の課題をわかりやすく解説

近年ではデジタル決済がトレンドとなっており、現金を持たない人もめずらしくありません。

各国の中央銀行は法定デジタル通貨を発行しようと、計画を進めている段階です。その最たる例が中国のデジタル人民元です。2022年の北京冬季オリンピック開催までに発行を目指すとして、話題になりました。

とはいえ「デジタル人民元ってどんな通貨なの？」と疑問に思っている方も多いのではないでしょうか？

そこでこの記事では、デジタル人民元の導入の背景やメリット・デメリットを解説します。デジタル通貨は今後日本でも検討される可能性があるため、興味のある方はぜひ最後までお読みください。

デジタル人民元とは？

デジタル人民元とは、中国の中央銀行「中国人民銀行」が発行するデジタル通貨です。

2022年に開催された北京冬季オリンピック会場で、外国人向けに提供され、注目を集めました。執筆時点（2022年10月）では、正式導入はされておらず、中国国内で実証実験を進めている段階です。

なお、デジタル人民元のような通貨を「CBDC（中央銀行デジタル通貨）」と呼びます。CBDCは「Central Bank Digital Currency」の略称で、中央銀行が発行するデジタル通貨を指します。

中国はCBDCの導入に積極的なため、今後の動向に注目するとよいでしょう。

デジタル人民元が導入された背景とは？

デジタル人民元が導入された理由は主に2つあります。

・デジタル通貨「リブラ（現ディエム）」が発表されたため

・人民元の世界的地位を獲得するため

それぞれ順番に解説していきます。

デジタル通貨「リブラ（現ディエム）」が発表されたため

米Facebookは2019年にデジタル通貨「リブラ」を発表し、話題になりました。

リブラは、ドルや円などの法定通貨を裏付けとしたステーブルコインです。ステーブルコインといえばテザーやUSDコインなどがありますが、それらとの大きな違いは規模感にあります。

Facebook社の抱えるSNSユーザーは月間でおよそ30〜40億人です。その規模でリブラが普及すると中国国内の経済が不安定になることが懸念されます。そのため中国共産党は、デジタル人民元の導入を急ぐようになりました。

人民元の世界的地位を獲得するため

現在、世界の基軸通貨は米ドルです。しかし、デジタル化されたドルは発行されていません。

そこで中国共産党は、人民元を早急にデジタル対応させることにより、世界的地位を向上させることを狙っています。

世界を代表する通貨になれば、世界市場において中国が覇権をとる可能性もあるでしょう。

デジタル人民元のメリット3つ

デジタル人民元を発行するメリットは以下の3つです。

1.人民元の国際化を強化できる

2.監視・統制を強化できる

3.アプリでかんたんに決済できる

それぞれ順番に確認していきましょう。

1.人民元の国際化を強化できる

先ほど解説したとおり、米ドルは世界の基軸通貨ですが、デジタル化されたドルはまだ発行されていません。そのためデジタル人民元を発行し、デジタル通貨内で中心となれば、人民元の国際化が強化されるでしょう。

また人民元の国際化が進み、巨大な経済圏を形成できれば、人民元の存在感が強まります。

2.監視・統制を強化できる

デジタル人民元を発行すれば、中国国内のお金の流れを把握しやすくなります。

これまで中国国内の不正な資金流出が問題視されており、金融当局も原因をつかめないままでいました。しかし、デジタル人民元を利用するようになれば、資金の動きを監視しやすくなり、経済を安定させることが可能です。

3.アプリでかんたんに決済できる

デジタル人民元を導入すれば、決済がかんたんになります。

デジタル人民元はスマートフォンの専用アプリで管理できます。支払いの際は、店舗の専用読み取り機にタッチするだけでOKです。

決済の利便性が上がり、誰でも使えるのは大きなメリットといえるでしょう。

デジタル人民元の課題2つ

デジタル人民元の課題は以下の2つです。

1.中央集権化に拍車がかかる

2.普及に時間がかかる

それぞれ順番に解説していきます。

1.中央集権化に拍車がかかる

デジタル人民元が流通すれば、取引の流れを把握しやすくなります。

デジタル人民元には「だれが・いつ・どこで」利用したかわかる仕組みが導入されています。そのため、監視や統制の対象とされやすくなり、中央集権化に拍車がかかるといえるでしょう。

監視しやすくなれば不正な資金流出を防ぐことは可能ですが、一方でお金の流れをすべて国に管理されるというデメリットもあるため注意が必要です。

2.普及に時間がかかる

デジタル人民元が普及するのに時間がかかることも課題です。

アジアやアフリカの新興国では、人民元を自国通貨の1つにすることで中国との取引が活発になると考えられます。

とはいえ、まだまだドルの信頼度は高いため、デジタル人民元の普及には時間がかかるという見方が一般的です。

デジタル人民元の発行から利用までの流れ・仕組み

デジタル人民元の発行は「間接発行型」と呼ばれる方法で発行されます。

デジタル人民元を中央銀行(中国人民銀行)が発行し、仲介する銀行(指定運営銀行と一般流通銀行)を通して個人や企業に渡る流れです。ブロックチェーン技術も使用されているため、取引情報やお金の流れを把握できるなど、中央集権的に管理されています。

発行されたデジタル人民元は、スマホに専用アプリを入れて口座を開設することで利用可能です。デジタル人民元には、オフラインでも利用できる機能(NFC)を備えており、近くのスマホ同士で直接決済できます。

デジタル人民元の現状

デジタル人民元はまだ実験段階ですが、すでに多くの人が利用中です。

2021年10月時点には、デジタル人民元のウォレットと呼ばれる専用の口座は、1億4千万個も作られています。
参考：中銀デジタル通貨のインパクトとデジタル円への期待

2022年2月に開催された北京オリンピックでは、実際にデジタル人民元を使えました。そして、2022年8月31日時点で、デジタル人民元を使った取引額は1000億元（139億ドル）に達したことを中国の中央銀行が発表しています。
参考：中国デジタル人民元、取引額が1000億元突破 | Reuters

また、中国のIT企業「テンセント」が提供する「ウィーチャットペイ」や、同じく中国IT企業の「アリババ」が提供する「アリペイ」という電子決済サービスが中国では浸透していますが、これらもデジタル人民元に対応しました。

このように、デジタル人民元は実証実験中ですが、活用できる範囲を拡大中です。

デジタル人民元・仮想通貨・電子マネーの違い

デジタル通貨は「CBDC」のことを指すことが多いですが、広い意味では電子マネーや仮想通貨も同じデジタル通貨です。では、デジタル人民元(CBDC)、仮想通貨、電子マネーの違いはなんでしょうか。

デジタル人民元は、中国の中央銀行が発行するデジタル通貨です。これはCBDC（中央銀行発行のデジタル通貨）と呼ばれるもので、以下のように定義されています。

• デジタル化されている
• 円などの法定通貨建てである
• 中央銀行の債務として発行される

出典：中央銀行デジタル通貨とは何ですか？ : 日本銀行 Bank of Japan (boj.or.jp)

以上の他にもデジタル人民元の場合は、インターネットに接続しなくても利用できるのが特徴です。

仮想通貨はインターネット上で流通するデジタル通貨で、ビットコインやイーサリアムなどが仮想通貨にあたります。仮想通貨は国に依存しておらず、国家が価値を保証していないため、需要と供給のバランスによって価値が変動するのが特徴です。

電子マネーは、現金(日本なら円)をデジタル化したもので、交通系ICカードやQRコード決済サービスなどが電子マネーにあたります。オンラインで決済し、民間企業が発行体である点が特徴です。

デジタル通貨	発行主体	基準となる通貨	価格変動
デジタル人民元(CBDC)	中央銀行	法定通貨	なし
仮想通貨(ビットコイン)	民間(参加者)	なし	あり
電子マネー	民間企業	法定通貨	なし

デジタル人民元についてよくある質問(FAQ)

デジタル人民元のよくある質問について、以下の3点を解説します。

• デジタル人民元は日本で買えますか
• デジタル人民元は日本にどんな影響を与えますか
• デジタル人民元を使うにはどんなウォレットが必要ですか

デジタル人民元は日本で買えますか

現在(2023年4月時点)は中国国内で実証実験が進められており、日本でデジタル人民元を購入する方法はまだありません。また、日本でデジタル人民元を使えることも確認できませんが、デジタル人民元に対応した店舗やサービスが増えれば将来的に利用できる可能性もあります。

デジタル人民元は日本にどんな影響を与えますか

デジタル人民元は、日本にも影響を与える可能性があります。例えば、デジタル人民元が普及すれば、日本と中国の貿易や観光が今よりも便利になるでしょう。また、国際的に利用されるようになれば、世界の経済バランスが変わり、日本も影響を受ける可能性があります。

デジタル人民元を使うにはどんなウォレットが必要ですか

デジタル人民元を使うには、専用のウォレットアプリ「数字人民币(デジタル人民元)」が必要です。主要のスマホアプリストアから専用アプリをダウンロードすると、デジタル人民元のウォレットとして使えます。

デジタル人民元の背景・メリット・課題まとめ

デジタル人民元とは、中国の中央銀行が発行するデジタル通貨です。

まとめとして、本記事のポイントをおさらいします。

• 仮想通貨リブラの影響や、人民元の世界的地位を獲得するためにデジタル人民元を導入
• 人民元の国際化を強化
• デジタル人民元は資金の動きを把握して管理できる
• アプリを使ってかんたんに決済できる
• 中央集権化に拍車がかかる
• デジタル人民元の普及には時間がかかる
• 中央銀行と企業や個人の間に、民間の銀行が介在する「間接発行型」という方法で発行されている
• 現状は実証実験中だが、多く人が利用している

デジタル人民元の国際化は、今後の世界経済に大きな変化をもたらす可能性があるでしょう。そのため、デジタル人民元が世界にどれだけ普及するか今後の動向にも注目です。